しあさっての方向

本と音楽と酒と詩

引きこもりラジオ

栗原が心を込めて作った「ひきこもりラジオ」の番組を見ながら、丁寧に作られた優しい番組を見ながら、
昔のことを考えていた。
一人きりだった時、繰り返し聞いていた音楽がある。

例えばそれは真島昌利のソロアルバム「夏のぬけがら」
Train Trainの熱狂のさなかに出されたそのアルバムは、当時相当な波紋を呼んだ。

シャウトもなければタテノリもない、童謡のようなシンプルなメロディで淡々と歌うそのアルバムは
しかし、当時僕のような若者の心を激しくとらえた。
ブルーハーツ結成直前、福生の米軍ハウスに引きこもっていたマーシー
甲本ヒロトという盟友と、パンクビートを持たなければ走り出せなかった
ひとりぼっちのマーシーの心がそこには綴られていた。

一番好きなのは「花小金井ブレイクダウン」
それはこんな歌だった。

 洋服着た犬連れて おばさんが歩いていく
 すました顔 厚化粧 おばさんが歩いていく
 洋風を着た犬はどうも好きになれない

 沈丁花の薫る道 紙袋舞い上がり
 タバコ買えば販売機 ありがとうと言ってた
 どうもと答えながら 少し寂しくなった

 タクシー会社の裏で 夏はうずくまっていた
 生ぬるいビール飲んで 春は酔っぱらってた

 オートバイでツーリング 突然空が泣いた
 君も僕もびしょぬれで おたがいを笑ったよ
 次の日のアルバイト ふたりとも休んでいた

 ひどく遠くはなれてる
 ひどく遠くはなれてる

誰かに会いたくて でも離れていく
美しい時もあったかもしれないけれど それはもう終わってしまった

一人きりの時には、一人きりの音楽が聴きたかった
苦しかったけれど、嘘くさいのも嫌だった
「辛いんだよね、わかるよ」そんな風に寄ってくるものは何よりも敵だった

誰かと会いたかったけど、ひとりでもいたかった
自分の持っているものが、自分の力で得たものではないような気がして
すべてを捨て去った先に何が残るか試してみたい気持ちもあった

生産的でないとは知りながら、だからこそという思いもあった
nothing to lose 当時のマントラのような言葉
世間の期待や家族のしがらみや 自分が望んだものではないもの全てを削り落とした先に何があるのか
一緒に、底の方まで沈んでいくような音楽や詩にふれた

同じ頃に聴いていたのは、ニューエストモデルの「底なしの底」

 もう期限切れだろう? このまま風に吹かれたいのさ
 もうやり残しをそのままにして 出かけたいのさ
 ずっと前 何も知らず 壁越しに秘密を聞いた
 
 おー 人ごみの中 特別だった自分がいない
 おー 隣の人も 特別だった自分を探す
 ぐっと手が空をつかみ 引き戻す 誰もいない
 
 もー 手遅れのなのか 誰もか彼もが不自由そうだね
 おー きれいに並んだベットの上で眠る魂
 知っていた そんなことは 知らぬ顔
 知らないふりで 甘えてきただけさ

 神様はいない おまえがそうだろう?
 おまえの中にきっといるんだろう

 弱い順番に死んでいくのなら 
 そろそろ次あたり 俺の番だろう そうだろう?

 あー 丘の上 乾いた風 大樹に背もたれて
 あー 底なしの青空に笑えるはずだろう?
 
 この地面が底なしの泥沼でも泳げるかい?
 底なしの底に何がある その奥には何がある 

きっと僕は余裕のある環境で 余裕のある孤独にひたっていただけなのかもしれない
自分としては苦しかったけど 今の人たちの苦しみに重ねるのは不遜なんだろう

でもそれでも と思う
引きこもりの話を聞くときに、自分自身と重ねて言葉を発しなければ
それは何の意味があるのだと

(引きこもっていた彼の弟に、彼が色々な助けの手を伸ばし、でもそれが逆効果だった話はよかった)

そして、何よりも大切な引きこもりソング。
栗原の番組で流してほしい

真心のサードアルバム「あさっての方向」から
「待ち合わせ」

 厚い雲が低く ぼくの上にたれこみ
 まさかあの上に 青空があるなんて思えない
 家にいるのもあきたよ
 君との待ち合わせ ただ待つ僕さ 

 ぼくはだらだら過ごしてる
 その間君は働く
 だけど日が暮れて会ってみると
 元気なのは君の方さ

 たいくつな毎日 あたま使いすぎ
 生身の君と早く話がしたいよ

 ささいな出来事
 必死になって話せば
 君には伝わるさ
 暗く落ち込んだ気分
 気づかないふりで君は笑ってる
 
 厚い雲が低くぼくの上にたれこみ
 まさかあの上に 青空があるなんて思えない
 家にいるのもあきたよ
 君との待ち合わせ ただ待つ僕さ

ひとりきりの人のための ひとりきりの音楽や言葉
それがあの頃たくさんあった
それは助かった
それはとても励みになった

だから僕は今でも 
ひとりきりの人のために 何かを届けようと思える人生を送れている
ひとりきり ではなく 心ある仲間すら持てるようになって
奇跡的に