しあさっての方向

本と音楽と酒と詩

森達也の「i 新聞記者ドキュメント」を見る

森達也の映画はA2以来。

「なんとなく、わかったような気になっていたもの」を取り上げて、流通しているイメージと映像から浮かび上がる実像との差を突き付けるのが森映画の真骨頂。
望月記者のことも菅官房長官との闘いについても、なんか知ったような気持ちになっていたけれど、それが二次情報の積み上げで出来上がったある種のイメージだったことに気付かされた。

映画の中の望月記者は、森さんに対してもタメ語でガツガツ行くし、ある意味ガサツなくらいパワフル。
彼女の内面や個人史には入っていかないから、ある種の物足りさや定まらなさも感じられるが、それはきっとあえてなのだろう。

(社内でのあれこれも取材させた東京新聞も何気に凄い)

組織の中での個人としてどうあるべきかとか、右も左も集団化することの違和感とか、今、自分が考え続けていることが、ど真ん中に描かれていました。

ただし作品全体としては、森さんにしてはキレがイマイチで内蔵を抉られたり、脳味噌を揺さぶられるような衝撃は少ない。
そして音楽などいくつかの演出は、明らかにテクニカルなレベルでどうかなとも思えるところも。

完成を急に早めたとか何か事情があったのかとか、もしかしたら100パーセント自分で作りきった作品じゃないのかなとも思わせたけれど(本人のモノローグで、大事な部分を語らねばならなかった所に、それを一番感じた)
色々なマイナスを差し引いても、今のタイミングでこの作品をリリースした意味は大きいと思う。

少なくとも、同業者の皆さんは見て絶対に損はないす。