しあさっての方向

本と音楽と酒と詩

相対主義時代の金言

岸田秀がどこかで書いていた「あなたが強く共感する意見は、あなたが共感するよう狙って書かれたものかもしれないと用心すべし」的な言葉と、
吉本隆明の「絶対に正しいと誰もが言う考えは、絶対に間違えを起こす」的な言葉が、人生の指針です。

(原典見つけられず、脳内メモリーで変換されてるかもですが)

啓く

物事がうまくいっている時は
思いがけない災いが待っているものだから
そんなに浮かれていてはいけない と
調子に乗りがちな息子を いつも戒めていた

 

期待しすぎないこと どんなときも
何事も うまくいかないものだと思っていれば
がっかりすることもないから と
そんなようなことを 繰り返し語っていた

 

バランスはいつも
よくない方に少しだけ 傾いていて
だけどそれを崩してしまったら
もっと ひどいことになるかもしれないから

 

それならば このままでいい
それならば このままを受け入れる
劇的でなくても
どこかに転げ落ちていくよりはまし

 

どうして そう思うようになったのか
ほんとうに
それでいいのか

 

何かに取り憑かれたように学び続け
夜遅くまで 家で仕事をしていた
その背中を覚えている

 

きっと何かがあった
諦めきれない何かを諦めざるを得なかった何かが

 

ままならないことばかりの世界

そのなかで
どれだけ朗らかに生きていけるか
しがらみから できるだけ遠く離れて
自分の人生を 
ちょっと他人の人生のように眺めたりして

 

悔いは消えないかもしれないけれど
それでもそれはそれなりに 
何かではあるんじゃないかと思う

 

あなたの人生も
わたしの人生も

ハードルと正解

高いハードルなら目指したいけれど

誰かの正解に合わせるのはつまらない

 


誰かのハードルになるのはいいけれど

誰かの正解にはなりたくない

 


答え合わせしたくなるときはある

基準があれば安心できるのもわかる

 


でもいつかそれ自身が目的になる

間違ってないと

誰かに認めてもらうことが

 


本当は正解なんてなくて

それぞれの答え 

それぞれの問いがあるはずなのに

それを探そうとすることが、答えなのに

 


そして今、答えを期待される立場になってしまった僕は言う

 


「ま、いいんじゃない? 君が良ければ」

 


誰かのハードルにはなるのはいいけれど

誰かの正解にはなりたくない

 


高いハードルなら目指したいけれど

誰かの正解に合わせるのはつまらない

ハゲと息子

息子はたまに優しい言葉をかけてくれる。

 

「ちょっと髪の毛、持ち直してきたんじゃない? 白髪は増えたけど」

 

やっぱ、優しいなぁ息子。

 

と、思っていると気付く。

 

彼は父を心配しているのではなく、自分の将来を心配しているのだと。

 

(すまぬ、息子)

友達のいない人

友達がいない人と友達になりたい
ロックは友達のいない人のための音楽だと
甲本ヒロトは言ったけれど
僕は友達がいない人と友達になりたい

 

友達がいないとき
本ばかり読んでいいた
マンガばかり読んでいた
音楽ばかり聴いていた
誰かのインタビューを読んで
その人の気持ちになったり 聞き手の気持ちになったり
僕はその場にいたかのような気持ちになって
会ったことも無い編集者と親しくなった

 

友達はいなかったけど
僕の気持ちがあうものはたくさんあった
音楽 小説 ドキュメンタリーや映画や、そして詩
それは友達がいない時の友達だった

 

すべてのさびしい人
すべてのうまくいっていない人
すべての 自分の気持ちをうまく伝えられない人 のために
僕は仕事をしていきたい
そんな人と僕は友達になりたい
間接的にでも
そんな人を励ましたい

 

友達のいない人は 今は少ないのか
趣味があう人とは出会いやすくなっているのかな
それはきっといい事なんだろう
それでも

 

誰かに出会いたい気持ちを抱えて
うまく伝えられない気持ちを抱えて
歩いている人は いるんだろうと信じて

忘却/抵抗

更地になった場所に

何の店があったか思い出せない

誰かが大切にした店が

また一つ更地になった

 


取り返しのつかないことが

毎日のように起きて

誰かが人生をかけた証が、

跡形もなく片付けられていく

 


更地になった場所に

何の店があったか思い出せない

つまり僕らも

そのように消えていくということか

それに抗いたい

 


覚えてないと 忘れてしまうよ

大切なことは どこかに書きとめないと

翌朝には何もなかったかのように

 


それに抗いたい

罪と前進

もう一度
初めからやり直せたら
どれくらいいいだろう と思う
被害者にも加害者にもならず 歩めたらと

でも それはできないこと
過去の僕の言動にはきっと
権力的で抑圧的なものもあった
確実に僕は 多くの人を傷つけてきた

仕方なかったとは言えない
被害者でもあったからとか
時代が違ったから とも言い訳できない
でも
それをどう償えばいいのだろう

過ち
それは僕を弱くするだろうか
あるいは
優しくするだろうか
それとも
曖昧にするだろうか

自分には もう
誰かの間違いを糺す資格などないのだと

戦後生み出されたダークヒーロー
デビルマンのような
罪を背負い 罪に苛まれながら それでも戦う物語
その意味が ちょっとわかる気がするいま

人を傷つけ 罪を背負ったその後に 
どう生きていくか

自分の矛盾と 人間のままならなさを 
身を持って知った先に
返り血を浴びながら伝える物語

もしそれが 同じような誰かの背を
押すこともあるならば