しあさっての方向

本と音楽と酒と詩

怒ればよかった

ディレクターとなって初めての打ち合わせのことを覚えている。

頭はいいけれど冷たい人ばかりに思えたその部署で、僕は意見を求められて自分が思っている事を口ごもりながら話した。

 


僕の意見に、何も返ってこなかった。

 


誰も賛同も反論もせずに、何も無かったかのように話し合いは続いた。

 


僕が何を言ったのか覚えていない。

 


期待されているのとは違う、求められているのとは違う感じのことを僕は言ったのだろう。何か頓珍漢なことを言ったのかもしれない。それでも。

 


何だこれは、と僕は思った。

 


戸惑いも怖れも疎外感も無力感も色々と感じて、その打ち合わせでそれ以上僕は発言しなかった。もちろんそれ以上、意見を求められることも。

 


怒り、のようなものを持てるようになったのは、どれくらい後だろう。

半年か1年か、もっと経った後か。

 


それからずっと怒っている。

自分に対しても。

あの時、あの瞬間に僕は怒るべきだった。

不当に扱われたことを。

君だってそうだ。今だってそうだ。