しあさっての方向

本と音楽と酒と詩

啓く

物事がうまくいっている時は
思いがけない災いが待っているものだから
そんなに浮かれていてはいけない と
調子に乗りがちな息子を いつも戒めていた

 

期待しすぎないこと どんなときも
何事も うまくいかないものだと思っていれば
がっかりすることもないから と
そんなようなことを 繰り返し語っていた

 

バランスはいつも
よくない方に少しだけ 傾いていて
だけどそれを崩してしまったら
もっと ひどいことになるかもしれないから

 

それならば このままでいい
それならば このままを受け入れる
劇的でなくても
どこかに転げ落ちていくよりはまし

 

どうして そう思うようになったのか
ほんとうに
それでいいのか

 

何かに取り憑かれたように学び続け
夜遅くまで 家で仕事をしていた
その背中を覚えている

 

きっと何かがあった
諦めきれない何かを諦めざるを得なかった何かが

 

ままならないことばかりの世界

そのなかで
どれだけ朗らかに生きていけるか
しがらみから できるだけ遠く離れて
自分の人生を 
ちょっと他人の人生のように眺めたりして

 

悔いは消えないかもしれないけれど
それでもそれはそれなりに 
何かではあるんじゃないかと思う

 

あなたの人生も
わたしの人生も