しあさっての方向

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U2日本公演 〜理想主義は負けない〜

昨日は13年ぶりのU2来日公演。
仕事を17時で切り上げて、さいたまスーパーアリーナへ。

僕にとって、U2は最も大切なバンドのひとつ。
特に大学生の時、繰り返し見たライブ映画「魂の叫び」から受けた影響は計り知れない。今回はその頃に出された名盤「Joshua Tree」の完全再現ライブ。何があっても行かない訳にはいかない。

ライブは本当に良かったです。
冒頭いきなりの「Sunday Bloody Sunday」
革命の歌、ではない。革命の名を借りた暴力を否定する歌。北アイルランド独立を目指すIRAを否定する歌は、発売当時大きな波紋を呼び、殺害予告も出された。「魂の叫び」では、危険の中でボノが100%の情熱で「革命だと、ふざけるな。人を殺して得られる栄光なんてあるものか」と叫んだその歌を、あの頃と完全に同じアレンジでU2は演奏し、僕はライブで初めて泣きました。

暑苦しいまでの正論。愛と平和のU2は、当時からどこか冷笑される存在でもありました。説教臭くて、クールとはほど遠い。アフリカのチャリティなんかを一生懸命にやる姿は「生徒会長みたいだよね」なんて言われたりもした。ロックっぽくないよね、と。

でも全くひるまなかった。ボノは、そしてU2は。
暑苦しくて何が悪い。と言ったかどうかは知らないけれど、目的があったら、そこに向かって最短距離で邁進する。自分の知名度を利用して政治家とも直交渉。アフリカの債務を帳消しにすることを求めたり、多くの人にメッセージを届けるために、できるだけ大きなキャパでの公演にこだわり、ライブに来れない人のために3D映画も作り、時には新作アルバムをiphoneに無料で強制的に配信して、大顰蹙を買ったこともある。

今回のライブ。8Kの驚くほど鮮明なスクリーンに映し出したのは日本語のメッセージ。

「人は全員が平等になるまで誰も平等ではない」
「愛は行く手を遮る全てを凌駕する」

クールではない。でもシンプルでパワフル。それがU2だ。
デビューから来年40周年となる今も、彼らは全く変わらぬ魂を持ち続けていた。

それは何か。
それは、理想主義だ。

理想主義。
80・90年代でも、それは馬鹿にされていた。
「音楽で世界が変わるわけがない」あるいは「世界を変えることなんて、できるわけがない」
したり顔で分析し、未来を先読みしているようで、実は既存の勢力や体制を補完する存在に成り下がる。U2はそんな人たちからは疎まれる存在だった。

理想を語ることは、頭のいい人がやる事じゃない。死んだジョン・レノン忌野清志郎ならいいけれど、生きている人の理想主義は徹底的に叩き、貶められる。

理想主義。
日本にも、それを掲げようとした政権があった。
民主党政権。鳩山さんの所信表明演説を覚えている人が今、どれくらいいるだろう。平田オリザが書いたその演説は、純度100%の理想主義。僕は今でもそこで語られた友愛のメッセージは素晴らしかったと信じている。しかしそれは、自他様々な要因で失敗し、分裂し、格好悪い姿をさらして、終わった。

理想主義そのものも、日本ではいまいちなものとして扱われるようになった。お花畑。ブーメラン。自分の手と足で戦ったこともない人たちの知ったかぶりの言葉が正論のように流通し、140字で切れ味よく断罪する言葉使いが、もてはやされる世の中になった。

(ちょっと話がずれた)

スマホをペンライトのように使う演出も、U2が早い段階から取り入れてきた演出。スタジアムに無数に輝くスマホのライト。
それは個人個人の命のように輝く。
テクノロジーが人を自由にすること。その一方でテクノロジーが人を疎外する現実もある。

矛盾。
資本主義システムのど真ん中とも言えるスタジアムロックで、資本主義社会の矛盾を訴えること。アメリカが産み出したロックンロールの豊かさのなかで、アメリカの矛盾を訴えること。
「魂の叫び」はアメリカの、特に黒人音楽の豊かさのルーツをたどりながら、その黒人を含む弱者を徹底的に搾取してきたアメリカの現代進行形の矛盾と向き合うロードムービーだった。
自分自身の矛盾も、それと向き合う苦悩も、すべてさらけ出してきた。 

Bullet the blue sky
アメリカが自由の名のもとに南米で何をしたかを告発する歌。そのクライマックスでサーチライトで客席を照らし「お前らも俺も、その汚いアメリカの腕のなかにいる」と歌ったあの演出も、再び行った。
ボノとU2の苦しい歩みを嘲笑うかのようなアメリカの現在。
それでも、ボノはパワフルだ。ある意味、トランプと同じくらいに。

今、ボノが見つめるのは女性の人権。世界の先進的な活動をした女性の映像をバックに歌うUltra Violet。草間彌生や、緒方貞子田部井淳子、そして伊藤詩織の映像が流された。

「人は全員が平等になるまで誰も平等ではない」
「愛は行く手を遮る全てを凌駕する」

シンプルで真っ直ぐなものが、前に進む。
諦めずに続けるものが、遠くまで行く。

そのことを証明してきたのがU2の音楽の歴史。
ほんと、超かっこいいよ。
日本に来てくれて、ありがとう。
僕も頑張ります。

中村哲さんへのメッセージもありました)