しあさっての方向

本と音楽と酒と詩

茨木のり子

苦しみに負けて

哀しみにひしがれて

とげとげのサボテンと化してしまうのは

ごめんである

                (苦しみの日々 哀しみの日々/倚りかからず)

 

分別さかりの大人たち

ゆめ 思うな

われわれの手にあまることどもは

孫氏の代が切りひらいてくれるだろうなどと

いま解決できなかったことは くりかえされる

より悪質に より深く 広く

これは厳然たる法則のようだ

 

                 (くりかえしのうた/人名詩集)

 

初々しさが大切なの

人に対しても 世の中に対しても

人を人とも思わなくなったとき

堕落が始るのね 堕ちてゆくのを

隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

                (汲む/鎮魂歌) 

 

 茨木のり子(1926−2006)