しあさっての方向

本と音楽と酒と詩

炎を背に

炎を背にしろ
常に
炎を背にして撮れと
まずそう教えられたのだと
報道の世界で
神様と言われた カメラマンが語った
 
火災現場に駆けつけた
新人時代のその巨匠は
ただ炎だけを撮っていたのだと言う
フィルムを持ち帰って
ただ炎 それだけが映っていたフィルムには
周りの状況も
焼け出された人々の悲しみも
何も映ってなかったのだと
その人は 笑い話に語った
 
どこで起こった火事なのか
どういう状況で起こった事件なのかを
客観的に伝えるためには
 
炎を背にしろ

教えられたのだと
 
異国の言葉のインタビューでも
頬の筋肉のわずかな動きで
感情が波立った その瞬間を察知して
的確にレンズをズームインしたという
伝説を持つカメラマン
 
炎は常に
その人の背にあったのだろう
 
僕は
たぶん
もっと手前から 始めなければならないのだ
 
炎はどこにあるか
背にすべき炎を 
僕は 持っているのか